JACマガジン

外国人労働者との働きかた

2023/11/17

外国人労働者が病気や怪我をした場合の対応は?保険制度についても確認

こんにちは、JAC(建設技能人材機構)の加納です。

建設業は危険な作業も多く、怪我のリスクも高い職場です。

昨今、外国人労働者が増えていますが、外国人労働者が病気や怪我をした場合にはどのように対応したら良いか迷うという方も多いでしょう。

今回は、外国人労働者が病気や怪我をした場合の対応について解説します。
保険制度や外国人労働者の労働災害発生状況についてもご紹介しますので、ぜひ今後の参考にしてください。

外国人労働者が病気や怪我をした場合の対応は?

外国人労働者が病気や怪我をした場合の対応は、日本人の場合と同じです。
以下の対応を行います。

労災指定病院に「療養の給付請求書」を提出して受診

まずは、労災指定病院で適切な治療が受けられるよう手配します。
急な病気や怪我に備えて、会社や現場の近くの労災病院を事前に調べておきましょう。

病院へは必ず日本人スタッフを同行させ、事故や怪我、病気の症状など、診察に必要な情報を適切に伝えられるよう努めましょう。
外国人労働者のみで行かせてしまうと、情報の伝達ミスが起きてしまったり、適切な診療科にたどり着けなかったりして、十分な治療を受けられない可能性もあります。

また、異国の地での病気や怪我は大変な不安を感じます。
精神面を安定させるという点でも、日本人スタッフの同行は重要です。
医療通訳士など、近くに外国人の受診時のサポートしてくれる方がいるとより安心です。

労災指定病院で受診する場合には、労働者は医療費の負担がありません。
窓口で労災であることを伝え、業務災害の場合は療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)、通勤災害の場合は療養給付たる療養の給付請求書(様式16号の3)を提出すると、傷病が治るまで無料で療養を受けられます。

なお、この書類は厚生労働省のホームページでダウンロードをして持参します。
事前にダウンロードして会社に置いておく、現場に用意しておくなど、万が一に備えた対策をしておくと焦らずに対応できるでしょう。
また、労災指定医療機関に用意があることも多いです。

誤って健康保険を使ってしまった場合は、手続きをして労災保険へ切り替えてもらう必要があります。

また、労災指定病院以外で受診する場合は、窓口で全額を建て替えなければならないので、治療費の持参が必要です。
後日、労働基準監督署に申請して労災認定されると、治療費の全額が返金されます。

労災の発生後に「労働者死傷病報告」を行う

労災の発生後は、労働基準監督署に「労働死傷病報告」をします。
こちらも日本人が労災を受ける場合の手続きと同じです。

報告の提出期限は、労災を受ける労働者の休業日数によって以下のように異なります。

  • 労災によって亡くなった場合:事故発生後すぐ
  • 労災による休業が4日以上:事故発生後すぐ
  • 労災による休業が4日未満:3カ月ごと(1~3月、4~6月、7~9月、10~12月)にまとめて提出

提出先は、労災が発生した事故現場を管轄する労働基準監督署です。
会社の所在地を管轄する労働基準監督署ではないため、注意しましょう。

労災保険の給付申請をする

労災保険は給付申請が必要です。
こちらも、日本人の労災の手続きと同じです。

給付申請は、原則として被災した労働者本人(亡くなった場合は遺族)が行います。
しかし、被災したのが日本人の場合でも、多くは企業が代行して申請を行っています。

特に外国人労働者の場合は、書類が複雑でわからなかったり、そもそも申請が必要なことがわからなかったりするため、書類作成・申請手続きまで、日本人スタッフがしっかりサポートするようにしましょう。

外国人労働者が病気や怪我をした場合も保険制度は適用される?

労災保険とは、業務上の災害や、通勤時の災害で負傷・疾病に罹患した場合に、必要な保険給付を行うものです。

労働基準法(第8章 第75条~第88条)において、「労働者が『業務上の事由により被った災害』について、事業主は『補償』しなければならない」と規定されています。
これにより、労災保険料は企業が全額負担することとなっています。

労災保険への加入は国籍を問わず必要であり、雇用する労働者が一人であっても加入が必須です。

たとえば、特定技能基準省令第2条では、特定技能外国人への労働者災害補償保険の適用を確保するため、特定技能所属機関が労災保険の適用事業所である場合、労災保険に係る保険関係の成立の届出を適切に履行していることが求められています。

労災保険以外の労働者のための保険制度

労災保険以外にも、労働者のための保険制度があります。
いずれも、外国人労働者も加入が必要です。

健康保険制度

健康保険に加入していれば、被保険者や被扶養者が病気や怪我をして医療を受ける際に、医療給付や手当金が給付されるものです。
常用雇用される場合に加入が必要となり、外国人労働者にも適用されます。

健康保険は、民間企業で正社員雇用の場合、または条件を満たすアルバイトの場合に加入します。
※くわしくは国民年金機構のホームページをご覧ください。

条件を満たさないアルバイトの場合は、国民健康保険に入ります。
基本的には日本に3カ月以上在留していれば、加入可能です。

就業時間外の病気や怪我で病院にかかる場合は、健康保険証(または国民健康保険証)を持参します。
日本人の場合と同様、治療費の自己負担額は3割となります。

厚生年金保険・国民年金保険

年金保険に加入することで、労働者が老齢になった時、障害死亡になった時には、年金や手当金が給付されます。

  • 厚生年金保険:適用事業所に常用雇用される間
  • 国民年金保険:常用雇用関係にないが外国人登録を行っている者

外国人労働者の労働災害発生状況も知ろう

外国人労働者が増える中、外国人労働者における労働災害はどのくらい起こっているのかも確認しましょう。

厚生労働省による「 2021(令和3)年 外国人労働者の労働災害発生状況 」によると、建設業における休業4日以上の死傷者数は934人(2020年は797人)、うち死亡者数は10人(2020年は17人)。

労働災害が最も発生している製造業の死傷者数が3,007人、うち死亡者数が8人なのに比べ、建設業は死亡者数が多いことがわかります。

発生状況は、「はさまれ・巻き込まれ」が148件、「墜落・転落」が142件、「飛来・落下」が122件となっており、死亡者の事故理由で最も多いのが「墜落・転落」です。

外国人労働者の病気や怪我などの労災を防ぐために

外国人労働者が病気や怪我を負った際に適切な措置を行うことはもちろんですが、そもそも病気や怪我を発生させないための取り組みも重要です。

まずは、外国人労働者の母国語での安全衛生教育を行い、安全への理解度を深めてもらいます。

業務を行いながらの指導では、安全確認が不十分になるおそれもあるため、安全衛生教育等の研修を行うのは別に時間をとるようにしましょう。

現場での対応は、複数言語での標識の設置が挙げられます。
一般的な現場では日本語表記のみですが、複数言語による標識を設置するのが望ましいです。
業務中に見ることになるため、パッと見てわかりやすいものにする必要があります。

JAC(建設技能人材機構)では、安全衛生対策について、外国人労働者向けに動画を作成しています。
ぜひ、外国人労働者に対しての安全衛生教育にご活用ください。
【Youtube】作業ごとの安全衛生対策のポイント

もし、外国人労働者が怪我をしたり病気になったりした場合には、適切な対処を行うためにも、「痛みの表現」も教えておくと良いです。
「ズキズキ」や「チクチク」といった表現は日本語ならではの言葉ですが、症状を的確に伝えるのに役立ちます。

症状を伝える「痛みの表現」や痛みを伝えるコツについては「日本語の「痛みの表現」を知ろう!うまく痛みを伝えるコツも」で詳しくご紹介しています。
ぜひご活用ください。

外国人労働者は、病院に行くと費用がかかると思い、少しの病気や怪我では我慢してしまうことも多いです。
安全衛生教育で病気や怪我などの労災を防ぐ工夫をするとともに、保険制度があることについても正しく伝えましょう。

また、日頃から外国人労働者とのコミュニケーションを密に取り、体調面などを気にかけてあげることも大切です。

まとめ:外国人労働者の病気や怪我は、適切な保険診療が受けられるように

外国人労働者が業務中や通勤中に怪我をした場合・病気に罹患した場合は、日本人と同じ手続きで労災保険が適用されます。

ただし、診察には必ず日本人スタッフが同行するなど、適切な診療が受けられるようサポートすることが大切です。

労災以外にも、病気や怪我の際に医療診療や給付が受けられる、健康保険や厚生年金保険、国民年金保険などの保険は、外国人労働者も加入する必要があります。

手厚い保険制度がある日本ですが、外国人労働者による死傷事故が多く発生しているため、事故を起こさない仕組み作りも求められています。

安全衛生教育の研修や、多言語による安全標識の設置など、安全への意識を高める取り組みを積極的に行っていくことが、事故を減らす第一歩です。

建設業界で特定技能外国人の受入れをお考えの企業様は、JACにお気軽にご相談ください!

※この記事は2023年4月の情報で作成しています。

私が記事を書きました!

一般社団法人 建設技能人材機構(JAC) 管理部(兼)調査研究部 主任

加納 素子

かのう もとこ

愛知県出身。
広報・調査研究業務を担当し、SNSの中の人。
SNSでは、日本を好きになってほしい、日本から世界へ建設の魅力を伝えたい、世界から選ばれる日本の建設業でありつづけるためにという思いをもって日々更新中。
また、アジア諸国における技能評価試験の実施可能性などの調査業務に従事し、各国の現地機関とのヒアリングを行っている。