JACマガジン

外国人労働者との働きかた

2025/03/17

特定技能外国人も年金制度へ加入する?脱退一時金についても解説

こんにちは、JAC(建設技能人材機構)の加納です。
今回は、特定技能外国人の年金制度の加入について、社会保険労務士の神保先生に解説いただきました。

特定技能で入国する外国人は若い人がほとんどで、「年金」と言ってもピンとこないことが普通です。

「年金」という言葉を知っていても、「それはお年寄りがもらうもので、自分には関係がない」と思っている人が大多数でしょう。

一方、給与支給日に給与明細書を見て「厚生年金保険」の保険料が控除されていると、「これは何ですか?」「どうして控除されるのですか?」と質問をしてくる人もいます。
また、なかには「私は年金には加入したくありません」と言ってくる人もいます。

今回は、このような特定技能外国人に日本の年金制度を説明するため、基本的な情報をまとめてみました。

特定技能外国人も年金制度に加入が必要な理由、知っておくべき「脱退一時金」の制度、受け入れる際に伝えておきたいポイントなどをご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてくださいね!

特定技能外国人は日本の年金保険に加入が必要?

日本の公的年金は「国民年金」「厚生年金保険」の2つです。

年金制度には、以下の目的があります。

  • 高齢で働けなくなったときにお金を受け取れる(老齢年金)
  • 病気や事故などで働けなくなったときにお金を受け取れる(障害年金)
  • 世帯主が亡くなった場合に遺族がお金を受け取れる(遺族年金)

ここでいう高齢は原則として「65歳」とされており、老齢年金は65歳からお金を受け取れます。

特定技能外国人も年金制度に加入する必要がある

日本では、日本人・外国人を問わず、20歳以上60歳未満であれば「国民年金」への加入が必要です。

さらに、法人(株式会社など)で働く人、および常用の労働者数が5人以上の個人事業主のもとで働く人は、働きはじめてから原則70歳になるまで「厚生年金保険」にも加入する必要があります。
このことから、日本の年金制度は「2階建て」といわれることもあります。

したがって、特定技能で日本に来た多くの外国人は、「国民年金」と「厚生年金保険」の両方に加入することになります。

年金制度への適切な加入が、改正入管法に基づく特定技能雇用契約を締結する受入企業が満たすべき適格性基準のひとつです。

ただし、特定技能外国人は65歳になる前に日本を離れることが多いため、「脱退一時金」の制度が設けられています。

特定技能外国人に適用される「脱退一時金」とは?

老齢年金を受け取るには10年以上の年金保険料納付済み期間が必要ですが、その前に帰国してしまうと、支払った年金保険料が無駄になってしまう可能性があります。
そのため、支払った年金保険料の一部を払い戻しする「脱退一時金」の制度が設けられています。

外国人労働者が脱退一時金の制度を活用するための条件は以下のとおりです。

  • 日本国籍を有していない
  • 公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の被保険者でない
  • 保険料納付済期間等の月数の合計が6月以上ある
  • 老齢年金の受給資格期間(10年間)を満たしていない
  • 障害基礎年金などの年金を受ける権利を有したことがない
  • 日本国内に住所を有していない
  • 最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していない

脱退一時金は外国人労働者が日本にいる間は請求できません。
社会保険の資格を喪失した日に日本国内に住所を有していた場合は、「社会保険の資格を喪失した後に、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していないこと」が求められます。

なお、母国が日本と社会保障協定を結んでいる国の場合は、脱退一時金を受け取ると、母国で年金を受け取る権利を失う可能性があるため、事前に確認が必要です。

脱退一時金の申請方法

日本出国後2年以内に、請求者(本人または代理人)が、日本年金機構等へ書類を提出します。
参考までに、脱退一時金の手続きには以下のような書類が必要です。

  • 脱退一時金請求書
  • パスポート(旅券)の写し
  • 日本国内に住所を有しないことが確認できる書類
  • 受取先金融機関名、支店名、支店の所在地、口座番号、請求者本人の口座名義であることを確認できる書類
  • 基礎年金番号がわかる書類(基礎年金番号通知書・年金手帳など)など

代理人が請求を行う場合は、委任状も必要です。
郵送・電子申請が可能ですが、就労以外の目的(旅行など)で日本を訪れた場合には、年金事務所または街角の年金相談センターの窓口での提出が可能です。

日本年金機構の審査が完了後、脱退一時金が振り込まれます。

年金制度について特定技能外国人へ伝えておくと良いこと

あらかじめ以下の内容を伝えておくと、外国人労働者が安心して働けます。
どのようなサポートや伝え方をすれば良いか、という点も含めてご紹介します。

年金保険料はどのように納めるか

まずは、年金保険料の基本について伝えておくとスムーズです。

例えば、従業員が5人未満の個人事業主のもとで働く人は「国民年金」に加入し、保険料は自分で区や市町村に納めますが、それ以外の人(株式会社などに勤める人)は「国民年金」と「厚生年金保険」に加入をし、保険料は給料から天引きされる仕組みであることなどです。

厚生年金保険料には、国民年金保険料も含まれているので、別で国民年金保険料を納める必要がないことも伝えておくと良いでしょう。

年金の保険料はどのように計算するか

保険料についても、おおよそいくら支払うことになるのか、具体的に数字を伝えておくと安心できます。

現在(2024年度)の「国民年金」の保険料は、1カ月あたり16,980円です。

「厚生年金保険」の保険料率は標準報酬月額(ほぼ毎月の給料の額)の18.3%で、等級表に当てはめて計算します。
保険料は毎月会社と個人が折半をして(会社、個人で各9.15%ずつ)納めます。

例えば、月給が20万円の人は、会社と個人がそれぞれ毎月18,300円を納入することになるなど、具体例も伝えておくと親切です。

また、「厚生年金保険」の保険料は、賞与(ボーナス)についても納める必要があること、従業員が産前産後休業や育児休業を取得した際には、会社および個人ともに保険料が免除されることなども伝えておきましょう。

脱退一時金の制度について

冒頭でも触れましたが、特定技能外国人のなかには、支払った年金保険料が掛け捨てになることを懸念して「支払いたくない」と拒否する人もいます。

そのため、事前に脱退一時金の説明をして理解してもらい、脱退一時金の申請書類の準備についても、帰国前にサポートしてあげると良いでしょう。

直接のサポートが難しい場合には、社会保険労務士などの専門家に依頼を行う方法もあります。

また、注意点として以下の点も伝えておきましょう。

  • 社会保険の資格喪失後、日本出国後2年以内に自身で申請を行うこと
  • 脱退一時金の概算額は実際の支給額と差が生じる可能性があること

年金制度の疑問はどこに相談したらいいか

日本で年金制度の運用、実施を行っているのは日本年金機構です。
日本年金機構は全国で約300カ所の年金事務所を開設しています。

年金に関して何か疑問がある場合には、会社への相談のほか、近くの年金事務所にも相談・質問ができることを伝えておくと親切です。

まとめ:特定技能外国人も年金制度への加入は必須!脱退一時金の説明もしておこう

特定技能で働く人には、会社から「年金制度は日本人だけでなく外国人も加入する制度であること」「脱退一時金という制度により帰国後に年金保険料の払い戻しがあること」「万が一、けがや病気の際にも年金制度からお金が支給される可能性があること」を伝えましょう。

事前に、日本の年金制度や年金保険料の支払いの必要性を理解してもらうことが大切です。
支払う保険料についても、具体的に数字を伝えておくと安心できます。

また、外国人労働者が脱退一時金の制度を活用するための要件や、脱退一時金の申請に必要な書類、脱退一時金の申請方法なども説明し、サポートすることもおすすめします。

建設業界で特定技能外国人の受入れをお考えの企業様は、JACにお気軽にご相談ください!
特定技能外国人のご紹介も行っております。

※この記事は2024年12月の情報で作成しています。

私が記事を書きました!

社会保険労務士 神保

社会保険労務士

神保 裕

じんぼ ゆたか

平成22年8月に行政書士登録、平成23年7月に社会保険労務士登録を行った。
約9年間にわたり外国人技能実習の監理団体の業務に携わった。
現在は、千葉県、東京都の法人の社会保険手続き、労働関係業務を行うとともに、外国人技能実習の入国後講習、監理団体への外部監査も行っている。