JACマガジン

外国人労働者との働きかた

2023/09/08

外国人労働者の受入れで宗教に関する問題や配慮点を知っておこう

こんにちは、JAC(建設技能人材機構)の加納です。

日本では、クリスマスやイースターを楽しみ、神社へ初詣に行き、お葬式は仏式で行うなど、宗教に対して寛容な雰囲気があります。
そのため、宗教によっては配慮が必要なことや、宗教観の違いによってトラブルが起こりうるということを、あまりご存知でない方も多いようです。

外国人受入れに際しては、宗教は避けては通れない問題です。

今回は、外国労働者を受け入れる際に、宗教に関して知っておくべきことや配慮が必要なこと、起こりやすい問題についてご紹介します。
正しい知識を得て、万全の準備をしておきましょう。

外国人労働者の受入れ前に各宗教の風習を確認!

日本人は「あなたは何を信仰しているのか?」と聞かれた時に、すぐに答えられる方はあまりいないそうです。

「先祖代々、仏教を信仰しているから仏教だと思うが、宗派が分からない」
「結婚式は神前式で行ったが、信仰しているかと言われると違う気がする」
「幼稚園は仏教系の園に通っていたが、高校はキリスト教系の学校に通った」

このように、さまざまな宗教が混在していて、なおかつそれが生活に馴染んでおり、特に疑問を抱かずに生活しているということは、外国人にとっては驚くべきことなのです。
そのため、日本人は宗教の問題を軽視してしまいがちです。

ただ、外国人労働者が増えてきた昨今、宗教の違いについて、事前に知識を得たり対策をとる企業も増えています。

しかし、さまざまな宗教があるため、規定のルールを設けたり他の企業を参考にするだけでは難しく、依然として宗教の問題に悩む企業は多いです。

まずは、宗教について知ることが第一歩。
ここでは、世界で信仰している人が多い宗教についてご紹介します。
※ご紹介するのは、あくまでもおおまかな宗教の特徴です。宗派や地域、個人によっても考え方や風習が異なることもあります。

イスラム教

世界三大宗教であるイスラム教は、中東・アジア地域を中心に世界中で信仰されている宗教です。
アジアでは特にインドネシアの信者数が多く、国民の87%がイスラム教を信仰しています。
唯一の神アッラーを信じ、アッラーの教えをまとめたコーランが聖典です。

イスラム教の信者を意味することばに「ムスリム」があります。
ムスリムの戒律は厳しく、1日に5回聖地メッカの方向に向かって礼拝を行う、断食月には日中は水も食事も摂らない、豚や酒は口にしないなどの決まりがあります。

また、頭を神聖なものだと考え、子どもの頭でもなでてはいけません。
ムスリムの女性は、家族以外の男性に対して肌や髪を見せてはいけないといった考え方もあるようです。

キリスト教

世界でもっとも信者数が多いキリスト教は、有名なカトリックやプロテスタントのほか、さまざまな宗派があります。

信仰している人が多い国には、アメリカやヨーロッパ圏の国のほか、中国、韓国、ベトナム、フィリピン、ブラジルなどがあります。

キリスト教では、食事に関する禁止事項はほとんどありませんが、なかには肉全般やアルコール、コーヒー、紅茶、お茶、タバコを禁止している宗派もあります。

仏教

世界三大宗教に数えられる仏教は、日本でもなじみの深い宗教です。
信仰している人が多い国には、中国、ベトナム、韓国などがあります。

仏教で食事に関して禁止事項があるのは、特定の宗派や僧・信者であるケースが多いです。
禁止されている食材としては、肉全般、牛肉、にんにく、にら、らっきょう、玉ねぎ、あさつきなどがあります。

儒教

儒教は孔子が説いた教えで、人を思いやる「仁」と、相手との関係に合ったふるまいをする「礼」を大切にしています。
そこから、目上の人を重視するといった考え方へとつながっています。

儒教は信者数としてはカウントされないものの、中国や韓国、台湾などで、その考えが深く根付いている宗教です。

特に韓国においてはその影響が顕著で、目上の人の教えは絶対に守らなくてはならないといった意識が強い人が多いのが特徴です。
そのため、たとえば上司が部下にお酒を勧めても、上司より先に口にすることを拒んだり、顔を背けて見えないようにして飲んだりすることもあるようです。

ユダヤ教

ユダヤ教は大きく3つの宗派に分かれ、食事の規定が厳しいものもあれば、食事の自由を認めて生活をする宗派もあります。

ユダヤ教が多い国には、イスラエルやアメリカ、ロシアなどがありますが、世界各国に信者がいます。

ユダヤ教では、安息日に一切の労働が禁じられています。
通常の業務はもちろん、書くことや火をおこすこと(料理をすること)、裁縫をすることなども労働とみなされるため気をつけましょう。

ユダヤ教で注意が必要な食材には、豚、血液、イカ、タコ、エビ、カニ、ウナギ、貝類、ウサギ、馬、宗教上の適切な処理が施されていない肉、乳製品と肉料理の組み合わせ(チーズバーガーやミートグラタンなど)などがあります。

ユダヤ教の人々にとっては、野菜と魚中心の和食は食べやすい傾向にありますが、血液を不浄のものとして嫌うため、調理法には注意する必要があります。

ヒンドゥー(ヒンズー)教

ヒンドゥー(ヒンズー)教は世界中で信仰しているのがインドやネパールに集中しているという、他の宗教とは一線を画している宗教です。

これは、ヒンドゥー教が古代インドのバラモン教と民間信仰が融合しながら形成されたことが理由です。

インド独特のカーストとよばれる身分制度は憲法で禁止されたものの、現在まで根深く残っており、身分によって就ける職業が決まっているなど、ほかにも厳格な規制があります。
食事でさえも、違うカーストの人とは食べたくないと考える人もいます。

食については、肉全般、魚介類全般、卵、生もの、にんにく、にら、らっきょう、玉ねぎ、あさつきといったものが、注意が必要です。
厳格なヒンドゥー教徒であれば肉食全般を避けるため、これらの食材が忌避の対象になりやすいですが、人によって卵だけを食べるなど個人差があるようです。

特に牛は神聖な動物として崇拝されているので、牛を食べることは禁忌とされています。

不浄を嫌う考え方が強く、テーブルマナーも細かく決まっているのも特徴です。
食事を渡す際は不浄の手(左手)ではなく右手を使う、人の食べ残しは不浄なので食べないといった考え方があります。
料理の取り分けも食べ残しと捉える方もいるので注意が必要です。

外国人労働者の受入れをして起こりやすい宗教問題や配慮点

外国人労働者の受入れで起こりやすい宗教問題に対しては、その宗教に対する知識を得ておくことと配慮が必要です。

具体的に起こりやすいトラブル例をご紹介しますので、配慮したいポイントもあわせて見ていきましょう。

食事のトラブル

食事は、禁忌とされている食べ物や、食事のマナー、食事に対する考え方などが違うため、トラブルが発生しやすいです。

具体的には、以下のようなトラブルや問題があります。

  • 冷えた弁当を食べるのに抵抗がある
  • 原料に使われているものがわからず食べられない
  • みりんや料理酒などアルコールを含む調味料が入っていると食べられない
  • ゼラチンやスープエキス、ラードなど肉類を含んでいてもわかりづらい

たとえば中国の人は温かい食事を大切にするので、冷たい弁当には抵抗があるといわれています。
大人数で弁当を発注する際などは配慮が必要でしょう。

禁忌となる食べ物がある宗教では、何を口にするかは重要です。
社食や社員寮の食事などでは、そもそも原材料名がわからないと食べられません。

また、アルコールを飲んではいけない宗教の場合、みりんや料理酒などの調味料が使われているものもNGということも多いです。
定食などで提供する場合は、使っている材料・調味料を明示すると良いでしょう。

その場合、動物の骨から抽出したゼラチンやスープエキス、豚の脂であるラードなどは一見わからないため、絵や文字を使って「豚は使っていない」「牛は使っていない」などを明確に示すなどの工夫も必要です。

ただし、イスラム教の場合は豚の絵でさえもタブー視するケースもあるので、個別に確認することが大切でしょう。

イスラム教の場合は、ハラル(ハラール)認証を受けたハラルフードを提供するという方法もあります。
ハラルとは、イスラム教で「許されている」という意味で、ムスリムにとって生活の指標となるものです。

ハラル認証を受けた食品や生活用品には「ハラル認証マーク」が付いているので、それらを取り入れたり、ハラル認証を受けている飲食店と提携したりするのも有効でしょう。

礼拝できる環境が整っていない

イスラム教では1日に5回、聖地メッカの方角に向かって礼拝を行います。
礼拝に関して起きやすい問題には、以下のようなものがあります。

  • 礼拝できる場所がない
  • 礼拝の前に足を洗えない
  • 毎週金曜日の集団礼拝に参加できない

企業側として、礼拝室を設置するなどの配慮は必要です。
また、礼拝室は空いている会議室を使うといった方法でも構いませんが、モスクや各施設の礼拝室は男女別になっていることがほとんどのため、分けておく配慮も必要です。

毎週金曜日は集団で礼拝を行う習慣もあるため、会議室を利用して集団礼拝を行ったり、近くにモスクがある場合は勤務時間中でも外出可にするなど、事前に考慮できるよう話し合っておくと良いでしょう。

断食月は日中の飲食ができない

イスラム教では断食月があり、ラマダン(ラマダーン)と呼ばれます。
ラマダンの期間は、日中は食べ物だけでなく水を飲むのも禁止されています。
飲食ができるようになるのは、日没から翌日の日の出までの間です。

そのため、ラマダンの時期は、日中は脱水症状などが起こっていないかなど、体調に気を配る必要があります。

シフトの変更が可能なら、ラマダンの間は飲食可能な夜間勤務にするというのも、ひとつの手でしょう。

病気やケガの際のトラブル

宗教によっては、家族の男性以外に肌を見せることをタブーとしているものもあり、男性医師や看護師に診察やケアをしてもらうことを拒む例もあります。
また、輸血を禁止している宗教もあります。

勤務中の事故で緊急搬送など一刻を争うケースも想定されるため、緊急時の対応については事前によく確認しておく必要があるでしょう。

外国人にとって宗教はアイデンティティーでもあり、生きる指針となるものでもあります。
考えや信仰を否定したり、価値観を押し付けたりしないようにしましょう。
受入れ企業では、担当部署や担当社員だけでなく全社員が共通認識として向き合い、受け入れることが大切です。
宗教以外の外国人労働者のトラブルについては「外国人労働者の雇用で発生しやすいトラブルと対処法を解説!予防策も紹介」で詳しくご紹介しております。
ぜひご覧ください。

まとめ:外国人労働者受入れでは宗教への配慮が重要!

外国人労働者は年々増えていますが、悩ましいのが宗教問題です。

外国人労働者受入れ企業でも対策を講じているところは増えていますが、何をして良いのかわからないという企業も多いのが実情ではないでしょうか。

世界にはさまざまな宗教があり、信仰や風習、生活に根付いた考え方など、日本人には想像も及ばないようなことがたくさんあります。

まずは、主たる宗教の特徴や禁忌など、宗教を知るところから始めましょう。
外国人労働者の受入れでは、宗教に関するトラブルは少なくありませんが、対策を講じることもできます。

宗教の違いによって発生するトラブルは、食べ物や礼拝に関すること、緊急の事故の際の対応までさまざまですが、宗派や個人の考え方によっても許容範囲は異なりますので、個別に確認していくことが大切です。

宗教に対しては、全社員が宗教への理解を示し、受け入れる姿勢をもつことも重要です。

JACは、建設業界での特定技能外国人の受入れに関するさまざまな疑問にお答えします。
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私が記事を書きました!

一般社団法人 建設技能人材機構(JAC) 管理部(兼)調査研究部 主任

加納 素子

かのう もとこ

愛知県出身。
広報・調査研究業務を担当し、SNSの中の人。
SNSでは、日本を好きになってほしい、日本から世界へ建設の魅力を伝えたい、世界から選ばれる日本の建設業でありつづけるためにという思いをもって日々更新中。
また、アジア諸国における技能評価試験の実施可能性などの調査業務に従事し、各国の現地機関とのヒアリングを行っている。