JACマガジン

外国人労働者との働きかた

2025/01/08

外国人労働者のための安全衛生教育とは?活用できる教材もご紹介

こんにちは、JAC(建設技能人材機構)の加納です。

近年、外国人労働者の労働災害が増加傾向にあります。
外国人労働者は言葉や風習が違うため、日本人労働者に教える以上に「安全衛生教育」が必要です。

今回は、外国人労働者への安全衛生教育の重要性を再確認するとともに、活用できる教材をご紹介します。

また、労働災害が起きてしまった場合に、どのように動けば良いかについてもお話しします。

外国人労働者の労働災害防止のためにも安全衛生教育が重要!

厚生労働省の調査によると、外国人労働者の労働災害の発生率は、日本人を含むすべての労働者の発生率よりも高くなっています。

また、外国人労働者の労働災害発生状況(死傷者数)は、令和3年は4,577件でしたが、令和4年には4,808件と5.0%増加しています。

外国人労働者の労働災害が発生する理由としては、次のような要因が考えられます。

  • 業務経験が浅い場合が多い
  • 日本語の理解が不十分
  • コミュニケーション不足による危険性の伝達・理解不足 など

労働災害防止対策のためにも、安全衛生教育の実施が重要です。
安全衛生教育を行う際の留意点についても、あわせてお伝えします。

安全衛生教育を実施する際の留意点

外国人労働者の労働災害防止を目的とし、安全衛生教育を実施する際には3つの留意点があります。

①準備 ②実施 ③フォローの3つのステップに分けて、留意点をご紹介します。

①準備

安全衛生教育を実施する前に十分な準備が必要です。
外国人労働者が十分理解できるよう、安全衛生教育の内容に適した、わかりやすい教材を準備します。

例えば、日本語であれば、漢字を使わずにひらがなとカタカナで文章を作成したり、漢字を使うなら振り仮名を振ったり、やさしい日本語に置き換えたりする配慮も必要でしょう。
漢字を使用しない文章でも、単語間に空白を入れる「分かち書き」をして、内容を理解してもらうための工夫をしましょう。
例)かならず ヘルメットを かぶって ください。

さらに、母国語に翻訳されたものであればより良いといえます。

②実施

外国人労働者の日本語の理解度を把握し、レベルに合わせた教育を実施します。
言葉以外でも伝わるように、視聴覚教材等も活用し、合図や標識、掲示などについても教育を実施すると良いでしょう。

そのほか、行う作業についてどんなリスクがあるかも説明しておく必要があり、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」に掲載されているヒヤリ・ハット事例の活用も推奨されています。
職場のあんぜんサイト

また、母国語が話せる外国人労働者の先輩や登録支援機関・監理団体など、適切な人員に通訳・教育の補助役を依頼すること、通訳に要する時間を確保しておくことも重要です。
外国人労働者が内容を十分理解できる環境を整えましょう。

③フォロー

教育の実施後は、理解度テストなどを活用し、継続的に教育を続けます。

理解したかどうかのみを聞くのではなく、教育の内容を外国人労働者自身が説明できるかといったチェック方法で、十分理解しているかを確認しましょう。

外国人労働者の安全衛生教育に活用できる教材をチェック

安全衛生教育には適切な教材が必要です。
ここからは、安全衛生教育教材に活用できる教材をご紹介します。

厚生労働省の安全衛生教育教材

厚生労働省からは、次のような安全衛生教育教材が公開されています。

職場のあんぜんサイト

主要な言語別の動画教材を集めたWebサイトです。

日本語のみですが、安全衛生関係のリーフレットや用語解説集も掲載されています。

マンガでわかる働く人の安全と健康(教育用教材)

働く人の安全と健康について学ぶ教材です。
マンガ形式になっており、初めて学ぶ方向けにおすすめの教材です。

14言語(一部11言語)に対応した業種・作業・危険有害要因(17種類)と、業種共通(1種類)の教材が用意されています。

こちらの教材を見せるポイントの一つとして「安全標識」があります。
マンガでは次の5つの安全標識について、図解とともに具体的に解説されています。

  • 禁止標識:禁煙や立ち入り禁止など
  • 指示標識:ヘルメット着用、手洗い励行など
  • 注意警告標識:転落注意、天井注意など
  • 安全状態標識:非常口、避難所など
  • 防火標識:消火器、非常ボタンなど

安全標識は誰でも簡単に危険や安全がわかるツールとして使われています。
職場にある安全標識についても、確認しながら学習すると理解が深まるでしょう。

印刷して使える「症状・病状説明のための指さしシート」も掲載されています。
万が一に備えて、会社や現場に印刷して用意しておくと安心です。
症状・病状説明のための指さしシート

技能講習補助教材

外国人労働者等に対して専門的用語等の理解を促すことを目的とした多言語教材です。

この教材は、登録教習機関が提供する講習テキストの補助教材として提供されています。

登録教習機関は、労働安全衛生法に基づき、特定の技能講習や実技教習を実施する資格を持つ機関のこと。
外国人を対象に講習を実施している登録教習機関の一覧は、以下よりご確認いただけます。
外国人を対象とした外国語対応の技能講習を実施している機関の一覧(全国版)

登録教習機関のテキストと並べることで、日本語と外国語の対訳形式になるように設計されています。

外国人従業員に登録教習機関の講習を受講してもらうことを検討している企業様は、ぜひご活用ください。

JACの安全衛生教育への取り組み

JACでは、次のような安全衛生教育に関する取り組みを行なっています。

安全や衛生の大切なはなし

建設現場にある危険について、安全に作業するためのポイントを箇条書きで22個、わかりやすく解説しています。
一つひとつが短い文章で書かれているので、建設現場に向かう時、作業に入る前などに読んでもらうのも良いでしょう。

一般社団法人建設技能人材機構のYouTubeチャンネル

一般社団法人建設技能人材機構のYouTubeチャンネルでは、日本の建設業について、JACの特定技能1号評価試験のテキストを使用して、わかりやすい日本語で説明しています。
日本の建設業で働こうセミナー「JACテキストで学ぶ建設業」

建設現場での事故の種類や安全のポイントを解説していますので、ぜひご活用ください。

JACオンライン特別教育/JAC技能講習

JACオンライン特別教育は、危険有害業務に携わる外国人を対象に、オンラインで建設業の安全衛生教育を実施するものです。

作業内容別(足場の組み立て、安全帯を使用する作業等)の講習や、新規入職者に建設現場での安全衛生について広く理解してもらうための講習など、さまざまな科目をご用意しています。

ベトナム語やインドネシア語、英語など、複数の言語に対応しています(受講対象科目、対象言語は順次拡大予定です)。

また、2025年1月からは、JAC技能講習が開始されます。
JAC技能講習は、教習機関の協力を得て、特定技能外国人などを対象とした母国語による技能講習の受講を支援するものです。

科目は、以下の5つです。

  • 車両系建設機械(整地・運搬・積込・掘削)運転技能講習
  • 玉掛け技能講習
  • 小型移動式クレーン運転技能講習
  • フォークリフト運転技能講習
  • 高所作業車運転技能講習

対応言語はベトナム語とインドネシア語です。
2025年4月以降、対応言語は拡大していく予定です。

万が一、外国人労働者の労働災害が発生した場合は?

外国人労働者の労働災害が発生してしまった場合には、労働基準監督署長に「労働者死傷病報告書」の提出が必要です。

外国人労働者が対象の場合、以下の被災者の情報の記載が必須となります。

  • 国籍・地域:在留カードまたはパスポートの「国籍・地域」欄を転記
  • 在留資格:在留カードまたはパスポートの上陸許可証印に記載されている「在留資格」欄の内容をそのまま転記

※参考:厚生労働省 労働者死傷病報告書(休業4日以上)様式

在留資格が「特定技能」または「特定活動」の場合、パスポートに添付されている指定書を確認して、「特定技能1号」と「特定技能2号」は分野、「特定活動」は活動類型を在留資格欄に記入をします。

労働災害等により労働者が死亡または休業した場合、「労働者死傷病報告書」をすみやかに提出しなければなりません。
報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした場合、刑事責任に問われることがあります。

外国人労働者が病気や怪我をしたときの対応や保険については、こちらを参考にご覧ください。
外国人労働者が病気や怪我をした場合の対応は?保険制度についても確認

なお、JACでは、受入企業と特定技能外国人の双方が安心して雇用・就労できる環境を目指し、1号特定技能外国人を対象とした補償制度を導入いたしました。
労働災害の発生時に、国が運営する労災保険の給付に上乗せで補償が行われます。

この補償制度は、受入負担金を原資として運営する制度です。
そのため、制度の利用に伴う新たな金銭負担はありません。

補償制度の利用の流れは、以下の通りです。

  • 労災保険へ給付請求(特定技能外国人→厚生労働省)
  • 労災保険の給付決定(厚生労働省→特定技能外国人)
  • 必要書類を提出(特定技能外国人→受入企業)
  • 見舞金を給付(受入企業→特定技能外国人)
  • 補償制度利用の必要書類を提出(受入企業→補償制度問合せ申請窓口)
  • 保険金を補償(保険会社→受入企業)

補償制度の詳しい内容は、こちらをご確認ください。
1号特定技能外国人向け補償制度

まとめ:外国人労働者に安全衛生教育をして労働災害を防ごう

外国人労働者による死傷事故の発生割合は全労働者と比べて高く、件数も増加傾向にあります。

労働災害を防ぐためには、外国人労働者に対する安全衛生教育の実施が必須です。
十分理解できる教材や教育環境を整備しましょう。

また、日頃から何度も繰り返し理解を求め、外国人労働者が自分の言葉で説明できるレベルまで理解してもらうことも大切です。

安全衛生教育には、ご紹介した厚生労働省の教材もおすすめです。
JACでも、安全衛生教育に対するさまざまな取り組みを行なっていますので、ぜひ活用してください。

労働災害等により死亡または怪我をした場合は、労働基準監督署長に「労働者死傷病報告書」の提出が必要です。
また、JACでは1号特定技能外国人を対象とした補償制度も導入しております。

安全衛生教育を適切に実施し、安全への意識を高めていきましょう。

建設業界で特定技能外国人の受入れをお考えの企業様は、JACにお気軽にご相談ください!

※この記事は2024年8月の情報で作成しています。

私が記事を書きました!

一般社団法人 建設技能人材機構(JAC) 管理部(兼)調査研究部 主任

加納 素子

かのう もとこ

愛知県出身。
広報・調査研究業務を担当し、SNSの中の人。
SNSでは、日本を好きになってほしい、日本から世界へ建設の魅力を伝えたい、世界から選ばれる日本の建設業でありつづけるためにという思いをもって日々更新中。
また、アジア諸国における技能評価試験の実施可能性などの調査業務に従事し、各国の現地機関とのヒアリングを行っている。

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