JACマガジン

外国人労働者との働きかた

2025/12/08

日本企業でイスラム教徒の社員と仕事をする際に知っておきたいこと

こんにちは、JAC(建設技能人材機構)の加納です。

イスラム教は、世界に非常に多くの信者がいる宗教の一つです。
日本も国際化が進む中で、イスラム教徒と一緒に仕事をする機会も増えていくでしょう。

イスラム教は、キリスト教の次に信仰する人が多い宗教です。
今回は、そんなイスラム教について、外国労働者を受け入れる際に知っておくべきことや、配慮が必要なことをご紹介します。

日本にいるイスラム教徒が仕事をする上で悩むポイントもご紹介します。
ぜひ参考にしてください。

日本でイスラム教徒の社員と一緒に仕事をするための基礎知識

イスラム教は、現在のサウジアラビアで生まれ、中東・アジア地域を中心に信仰されている、世界三大宗教の一つです。
2024年時点で世界に約19億人の信者がおり、世界で4人に1人がイスラム教徒といわれています。

アジア諸国の中では、特にインドネシアに信者数が多いです。
インドネシアでは、国民の87%がイスラム教を信仰しています。

唯一の神アッラーを信じ、アッラーの教えをまとめたコーランが聖典です。
また、イスラム教の信者は「ムスリム」と呼ばれます。

知っておきたいイスラム教の戒律

イスラム教徒は戒律をとても重視します。
そのため、日本でイスラム教徒を社員として迎える際には、戒律について十分に理解しておくことが大切です。

ここからは、ムスリムの代表的な戒律についてご紹介します。

1日に5回聖地メッカの方向に向かって礼拝を行う

イスラム教徒は、1日5回、聖地であるメッカの方向に礼拝をします。
礼拝のタイミングは、以下の5回です。

  • 夜明け
  • 正午過ぎ
  • 午後(15時頃)
  • 日没後(18時頃)
  • 夜(20時頃)

金曜日は集団礼拝を行う

イスラム教徒にとって、金曜日は特に重要な日です。
金曜日は安息日となっており、正午前後に男性のみ、モスクに集まり集団礼拝を行います。

普段の礼拝は職場などの礼拝スペースでも行うことができますが、金曜日の集団礼拝は必ずモスクで行います。

ハラム食材がある

イスラム教では、戒律で食べるのを禁じられているものがあり、それらを「ハラム」と言います。

特に注意したいのが、豚肉と酒です。
豚肉のエキスが入ったスープや調味料、酒が使用されている調味料なども禁止されています。

反対に、食べることを許されている食材を「ハラル」と言います。

ラマダンがある

イスラム教では、年に1回ラマダンという行事を行います。
ラマダンとは、断食月という意味です。

ラマダンが行われるのは、イスラム暦の9月です。
その1カ月間は、日が出ている時間の飲食が禁止されています。

イスラム暦の9月は日本だと2月〜3月頃にあたり、毎年変わります。

日本で働くイスラム教徒の社員が感じやすい課題と仕事上の不安

イスラム教徒が来日前に不安に感じやすいことや、日本で働いてみて困ることについてご紹介します。

来日前に感じやすい不安

来日前にイスラム教徒が感じやすい不安には、次のようなものがあります。

  • ハラル対応の食事ができるか
  • 礼拝する場所があるか
  • 上司や同僚との付き合い方(飲み会への参加など) など

日本の食事には豚肉やアルコールが含まれることが多いため、ハラル対応の食事が手に入るか不安に感じることが多いようです。

また、勤務先や住居の近くに礼拝所があるかどうか、勤務中に礼拝のためのスペースや時間が確保できるかどうかを不安に感じている方は多いです。

イスラム教に限らずですが、文化や習慣の違いに不安を感じている方もいます。
上司や同僚との付き合い方、特に飲み会などへの参加については悩みやすい部分です。

日本で働いてみて感じる困難

実際に日本で働くイスラム教徒が困ることが多いのは、次のようなことです。

  • ハラル対応の食事を見つけるのが難しい
  • 礼拝の時間や理解が得られない
  • ラマダン期間中の業務の負担が大きい など

来日前に不安に感じる食事や礼拝については、実際に困るケースも多いようです。

都市部以外ではハラル認証を受けた食材や店が少ないため、原材料名をチェックしながら選ぶことになります。
ただし、近年はハラル食品を扱うオンラインショップが充実しているため、通販を利用して食品を購入する方も増えています。

一方で、会社の懇親会や会食では食べられるものがなくて疎外感を感じてしまうこともあります。

また、礼拝に必要な時間について理解してもらえなかったり、礼拝に適したスペースがないために不便を感じたりすることもあります。

ラマダン期間は、体力の低下や集中力の維持に苦労しやすい期間ですが、日本にはない慣習のため、ラマダンにあわせた業務量の調整が難しいという課題もあります。

このような困りごとを解決するために、大掛かりな対応が必要なわけではありません。
イスラム教に対する理解を深め、少しの工夫でお互いが働きやすい環境をつくることができます。
人事担当者など一部の社員だけでなく、会社全体・社員全員が理解を深められるように、日本人従業員に向けたオリエンテーションの実施なども検討しましょう。

そのためにも、次でイスラム教徒の社員と仕事をする際のポイントをお伝えしますので、ぜひ参考にしてみてください。

日本企業がイスラム教徒の社員と仕事をする際のポイント

日本で働こうと考えている多くのイスラム教徒は、イスラム教の慣習が日本にないものであるということは理解しています。
「イスラム教徒だから」といって特別扱いする必要はありませんが、円滑に仕事を進める上で配慮できると良いポイントをご紹介します。

礼拝への配慮

イスラム教徒は、お伝えしたように1日に5回、決められた時間に10分から15分程度の礼拝をします。

勤務時間内に礼拝を行うことになるため、事前に礼拝の時間を聞いておき、一緒に働く日本人従業員にも共有しておきましょう。
「正午と午後のお祈りは1回にまとめても問題ない」という方もいます。

特に重視されている金曜日の礼拝については、普段の礼拝とは時間や場所が異なることもあります。
どの程度の時間を礼拝に割く必要があるか確認し、場合によっては休憩時間を変更するなどの対応を検討しましょう。

また、礼拝スペースとしては、清潔で静かな人目につかない場所が理想的です。
難しい場合は、会議室や空きスペースを一時的に提供するだけでも問題ありません。

男性のイスラム教徒社員、女性のイスラム教徒社員がそれぞれいる場合は、男女別の礼拝スペースを用意できるとより良いですが、パーテーションなどで区切れば問題ないことも多いです。

食事への配慮

社員食堂や懇親会で食事を提供する際は、ハラル対応のメニューを用意したり、事前に食べられないものが入っていないか確認できると安心です。
難しい場合は、ベジタリアンメニューや魚料理などを選ぶと一緒に食事を楽しみやすいです。

豚肉やアルコールだけでなく、ゼラチンやショートニング、醤油、みりんなど、豚由来の原材料やアルコールを含む調味料や添加物にも注意しましょう。

ハラル認証機関に認証された飲食店には「ハラルマーク」が掲示されているため、外で食事を共にする場合は、それを目印にするのがおすすめです。

▼ハラル認証マークのイメージ

「ハラールグルメジャパン」など、ハラール食を提供する飲食店を検索するアプリを活用するのも方法の一つです。
ハラールグルメジャパン

ラマダン期間中の勤務調整

年に一度のラマダン月は、日の出から日没まで断食をします。
体力や集中力の低下が起きやすいため、早出・早退や時短勤務など、業務に支障のない範囲で柔軟な勤務形態を検討しましょう。

勤務形態の変更が難しい場合は、体力を使う仕事や会議をできる限り午前中にするなどの工夫もできます。

また、ラマダン期間中は水分補給も制限されるため、特に建設現場などの屋外作業の場合は熱中症のリスクが高まります。
暑い時期のラマダンと重なる場合は、屋内の涼しい環境での作業に配置を変更したり、直射日光を避けられる作業を割り当てるなど、安全面に配慮した対応を検討しましょう。

服装への理解と配慮

イスラム教徒の女性は、ヒジャーブと呼ばれる頭を覆うスカーフやニカーブと呼ばれる顔を覆うベールなどを着用することがあります。
これらは信仰に基づくものであるということを理解することが大切です。

このほか、イスラム教徒は肌を露出する服装を避けるため、特に女性は暑さを感じやすい場合があります。
イスラム教徒の社員に限りませんが、多くの社員が快適に過ごせる温度に設定できると良いですね。

挨拶への配慮

イスラム教徒の多くは、異性との握手を避ける傾向があります。

​異性間での握手は、女性から手を差し出された場合のみ応じるのが原則です。
そのため、男性から女性に握手を求めることは避け、軽く会釈をするなど、相手の文化を尊重した対応を心がけましょう。

また、握手をする場合は、左手ではなく右手を使うのが基本です。

一人ひとりに合わせた配慮

ご紹介したポイントは、あくまで一般的な例です。
社員一人ひとりの信仰の度合いや文化背景によって、対応は異なります。
本人の意見を直接聞きながら、柔軟に対応することが大切です。

「同じイスラム教徒の⚪︎⚪︎さんは大丈夫だったのに」など、他の方の基準を押し付けるようなことは絶対にやめましょう。

外国人労働者が信仰している宗教は、イスラム教だけではなく、キリスト教や仏教、ヒンドゥー教など、さまざまです。
イスラム教以外の宗教について、こちらでもご紹介していますので、あわせて参考にしてください。
外国人労働者の受入れで宗教に関する問題や配慮点を知っておこう

イスラム教徒が相談できる場所やコミュニティ

これからイスラム教徒の社員と働く場合、相談できる場所やコミュニティがあることも伝えておくと、より安心して日本で働いてもらうことができます。
可能であれば事前に調べておき、どのような選択肢があるかだけでも共有できるよう準備をしておくと良いでしょう。

日本のモスク

全国のモスクは、宗教的な役割だけでなく、コミュニティの中心としての役割も持っています。
生活や仕事の悩みなどを相談するのに良い場所です。

国際交流団体

日本各地に国際交流に関連する協会やNPO法人があります。
そのような団体は、異文化を持つ人々が日本で生活するためのサポートを行なっています。

オンラインコミュニティ

SNSのグループやオンラインフォーラムには、日本で働くイスラム教徒向けのコミュニティがたくさんあります。
同じ境遇の人々と情報交換や悩みの共有ができます。

まとめ:イスラム教徒の社員と日本で仕事をする際には宗教への理解と配慮を

イスラム教は、世界三大宗教の一つで、世界の4人に1人が信仰しています。
1日5回の礼拝や豚肉・酒の飲食禁止、ラマダンと呼ばれる断食期間があることで知られています。

「イスラム教徒だから」といって特別扱いをする必要はありませんが、宗教について理解し、尊重することはとても大切です。
イスラム教徒にとっても、日本で働くことに対する不安や課題はあります。
礼拝や食事、服装などについては可能な範囲で配慮し、仕事仲間として良い関係性を築けるよう工夫しましょう。

とはいえ、同じイスラム教でも信仰や文化的な背景は異なるため、一人ひとりに合わせた対応を意識することが大切です。

特定技能外国人の受入れをお考えの建設企業様は、JACにお気軽にご相談ください!

※このコラムは2025年9月の情報で作成しています。

「異文化理解講座 イスラム教編」を開催

JACでは、外国人スタッフと円滑に仕事を進めるために相手の国の文化や風習を理解することを目的として、「外国人共生講座」を開催しています。

2025年6月19日には、その一環として「異文化理解講座(2) イスラム教編」(講師:株式会社ORJ 河元氏)を開催しました。

イスラム教の基礎知識からイスラム教徒が日本に来て感じることなど、イスラム教徒の社員を受け入れる際のヒントが満載の講座でした。
セミナー動画や資料も公開しておりますので、ぜひご活用ください。
開催レポート・見逃し配信・資料「異文化理解講座(2) イスラム教編」

私が記事を書きました!

一般社団法人 建設技能人材機構(JAC) 管理部(兼)調査研究部 主任

加納 素子

かのう もとこ

愛知県出身。
広報・調査研究業務を担当し、SNSの中の人。
SNSでは、日本を好きになってほしい、日本から世界へ建設の魅力を伝えたい、世界から選ばれる日本の建設業でありつづけるためにという思いをもって日々更新中。
また、アジア諸国における技能評価試験の実施可能性などの調査業務に従事し、各国の現地機関とのヒアリングを行っている。

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